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 ■絶滅危機! 熱帯性の遺存種  ツシマウラボシシジミ  Pithecops fulgens tsushimanus  【シジミチョウ科】

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まさに風前の灯火…。 野生絶滅の危機を迎えています。 原因は,

 ●シカの食害及びイノシシの土壌破壊による食餌植物(食草)の消滅と林床の乾燥化
 ●林業の衰退による杉林周辺の生息環境の悪化
 ●大陸からの汚染物質の飛来や種そのものの寿命

などが考えられます。

これを受け,環境省・対馬市・保護団体によって島内外での人工繁殖が行われていますが,最終目的の野外復帰までの道のりは厳しいと言わざるを得ません。
また,やや遅きに失した感がありますが,長崎県も「未来につながる環境を守り育てる条例に基づく希少野生動植物種指定リスト及び希少野生動植物種保存地域指定区域」に基づき,対馬全域でのツシマウラボシシジミの捕獲を規制しました。

平成29年1月2日
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令の一部を改正する政令」により,絶滅のおそれのある野生動植物「国内希少野生動物種」に指定されました。 これによりツシマウラボシシジミの捕獲・売買・譲渡は原則禁止となります。
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 林床の下草で翅を休める 2008.06.08 対馬市豊玉町 
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.07.17 対馬市豊玉町 
 

 
 馬亜種  
 
和名に「ツシマ」という名前がついているので,対馬の特産種だと誤解されている方も多いのですが,原産地はインドのアッサム地方です。 その後,台湾の北部山地・ベトナムにも分布することが知られています。 
発見当時,このような熱帯性のチョウが,日本のしかも対馬のような島嶼に生息していたことはにわかに信じ難く,大きな話題になったそうです。 発見者は,当時長崎大学の学生であった浦田明夫・池内一三さんたちです。


学名 Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957)  亜種名に「つしま」,命名者に発見者の一人である浦田さんの名前がつけられています。
昆虫を研究する人にとって,新種を発見することは夢であり最高のロマンなのですが,新種でなかったにしろ,日本未記録種の発見は胸が躍ったに違いありません。
▲ツシマウラボシシジミの分布 Pithecops fulgens Doherty, 1889

 
▲ツシマウラボシシジミ 2007.07.08 対馬市上県町    ▲ツシマウラボシシジミ 2007.07.08 対馬市上県町 
 
▲ツシマウラボシシジミ 2007.07.08 対馬市上県町   ▲ツシマウラボシシジミ 2009.08.29 対馬市豊玉町 
 

  
 息域  
 
ツシマウラボシシジミは対馬北部を中心に分布し,南に下がるほど局地的でした。 南限は美津島町濃部まで現認しています。 さらに南の大船越でも記録があるという話がありますが真偽は不明です。

発見時当初は生息域が対馬北部の木漏れ日の差すやや薄暗い杉林に限られていましたが,次第に南の方へ広がりを見せ始めました。 
特に,1990年前後はもっとも活発な 活動が見られた時期で,直射日光の当たる場所にもバンバン進出してきたり,数メートルもある杉の樹上を一気に飛び越えたりと,今までのイメージを覆す行動 が観察されました。 
何か特別なスイッチでも入ってような感じでした。 その後徐々に終息し,個体数を減らししていきました。 種そのものの寿命を感じた原因の一つです。

次第に分布域を南に広げていたころの原動力は飛翔力にあると思っています。
通常は杉林の下草の辺りを弱々しく飛翔しているので,移動性は小さいという印象を受けます。 しかし,このように飛翔していた個体が,突然上空に舞い上がり,杉の樹冠を飛び越えて姿を消したのを何回も目撃したこともあります。 

このことは,現在取り組まれている人工繁殖から野外復帰への段階での難しさを示唆しています。 サンクチュアリの構造を慎重に考えなければならないからです。
▲ツシマウラボシシジミの生息域拡大 Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 

 
▲ツシマウラボシシジミ 2008.06.08 対馬市豊玉町    ▲ツシマウラボシシジミ 2008.06.08 対馬市豊玉町 
 
▲「野外絶滅!? ツシマウラボシシジミ」 ダイジェスト版 3分1秒   ▲「野外絶滅!? ツシマウラボシシジミ」  5分3秒 
 

   
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2009.08.29 対馬市豊玉町 
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.08.07 対馬市豊玉町 


かつての生息環境です。 生息地は対馬の中北部で,谷筋の小河川沿いに延びる杉林の林道沿いに広く見ることができました。

主な生息環境はこのような杉林の林内で,付近に沢か渓流が形成され,適当な日照が保障されなければならないようです。
熱帯性のこのチョウがどのようにして対馬に生き残ることができたのか,一番興味のあるところです。 その答えを越冬前の幼虫の造巣性に求めた見解もありますが,正直なところよく分かっていません。

▲ツシマウラボシシジミ 生息地  2008.06.08 対馬市豊玉町

▲ツシマウラボシシジミ 生息地  2005.07.10 対馬市上県町

▲ツシマウラボシシジミ 生息地  2005.06.18 対馬市峰町

▲ツシマウラボシシジミ 花をつけた食餌植物のフジカンゾウ  2006.09.03 


   
 翔  
 
原産地が熱帯性のチョウらしく,♂の翅表は青藍色に輝いて見えます。 
林道の木漏れ日が差す中をチラチラと飛翔する様子はこのチョウ独特の雰囲気を持っています。
 
▲ツシマウラボシシジミ 2009.09.21 対馬市豊玉町    ▲ツシマウラボシシジミ 2009.09.21 対馬市豊玉町 
 
▲ツシマウラボシシジミ ♀の翅表は黒褐色 2009.05.30  対馬市豊玉町   ▲飛翔する♂ 実際より1/3程度スローで撮影しています  2009.09.21 - 2010.09.25 
 

   
 年経過・交尾・産卵  
 
 多化性で年3〜4回の発生と思われます。 

年5回はちょっと厳しい感じがします。 5月中旬〜 ,7月上旬〜 ,8月中旬〜 ,9月下旬〜 ,・・・幼虫〜終齢幼虫で越冬。 
 ▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 葉上で交尾  2007.08.05 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ 2007.08.05 対馬市豊玉町  ▲ヌスビトハギの実に産卵  2008.09.27 ▲フジカンゾウの新芽に産卵  2008.06.08 
▲ツシマウラボシシジミ 2010.06.12 対馬市峰町 ▲卵は1個ずつ産み付けられます  2010.06.12 ▲葉柄にも産み付けられています  2007.06.03 
▲ツシマウラボシシジミ 2007.06.03 対馬市上県町 ▲孵化直後の初齢幼虫  2007.06.03 ▲ツシマウラボシシジミ 2004.06.26 対馬市豊玉町 

   
 
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 越冬のための巣造り  2018.11.01 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 越冬前の終礼幼虫  2018.11.01 対馬市


 蜜  
 
林床に咲く各種の花で吸蜜する姿が見られます。 中でもハエドクソウは最も好まれる花です…。
 ▲ゲンノショウコ Geranium thunbergii  2009.09.21 ▲ハエドクソウ Phryma leptostahya  2005.07.10  ▲ヒメジソ Mosla dianthera  2010.10.09
▲ナワシロイチゴ Rubus parvifolius  2010.06.12 ▲ヒメジョオン Erigeron annuus  2008.06.08  ▲ヤクシソウ Youngia denticulata  2007.05.27
▲キツネアザミ Hemisteptia lyrata  2009.05.30 ▲トウバナ Clinopodium gracile  2008.06.08  ▲ギンレイカ Lysimachia acroadenia  2008.06.08 
▲キツネノマゴ Justicia procumbens  2009.08.29  ▲ヌマダイコン Adenostemma lavenia  2008.09.27   ▲キュウリグサ Trigonotis peduncularis  2005.08.26
▲ヤブタバコ Carpesium abrotanoides  2011.09.11  ▲オカトラノオ Lysimachia clethroides  2005.07.10  ▲ドクダミ Houttuynia cordata  2008.06.08 
▲ママコノシリヌグイ Persicaria senticosa  2008.09.27  ▲ヤマハタザオ Arabis hirsuta  2009.06.21  ▲コモチマンネングサ Sedum bulbiferum  2008.06.08
▲カラノアザミ Cirsium japonicum  2007.05.27  ▲シロツメクサ Trifolium repens    2007.05.20 ▲ヤクシソウ Youngia denticulata  2007.05.27


   
 水  
 
 吸水も数度観察しました。  他のチョウと同じように吸水→ポンピングも行っています。
 ▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 地表で吸水 水分に含まれるミネラルを摂取していると言われています 2011.06.01 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ 2005.06.18 対馬市豊玉町    ▲ツシマウラボシシジミ 2007.05.20 対馬市上県町
 
▲ツシマウラボシシジミ 2007.05.26 対馬市峰町    ▲ツシマウラボシシジミ ポンピング 2007.05.20 対馬市上県町 
 

   
 れから  
 
対馬特産亜種ツシマウラボシシジミの野外絶滅の声が大きくなってきました。 

1950年代に対馬北部の杉林で発見された熱帯性依存種であるこの貴重なシジミチョウは本当に終焉を迎えるのでしょうか。
 
保護に当たっている団体によると残された唯1か所の野外生息地での繁殖を諦め,施設による人工繁殖に望みを託しているようです。 
対馬の総面積から割り出した適正頭数の10倍にもなる約3万数千頭にも増えてしまったシカによる食害が絶滅に拍車をかけている要因であることは間違いありません。時既に遅し! 悲観的にならざるを得ません…。 

特にシカについてはあらゆる規制を排除して早急に駆除に取り組んでほしいと思います。 今は机上の協議より1つの具体的な行動を期待したいものです。 
▲ツシマウラボシシジミの保全対策 Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 

▲かつてツシマウラボシシジミが生息していた環境もシカやイノシシの害により激変してしまいました 今は下草までもが消滅しています   2007.08.05 → 2009.09.21
 

   
 本画像  
 
 
 
♂     ♀
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 



  






  ■資料画像
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.07.17 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2008.06.08  対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2007.08.17 対馬市上対馬町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.07.17 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2009.08.15 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2008.06.08 対馬市峰町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2009.08.29 対馬市峰町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.06.01 対馬市豊玉町
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2011.08.07 対馬市豊玉町


 生息域内保全エリア内にて 
▲ツシマウラボシシジミ ヌスビトハギに産卵 2020.10.7 対馬市 ▲ツシマウラボシシジミ フジカンゾウに産卵 2020.10.7 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ 若齢幼虫 202010.7 対馬市 ▲ツシマウラボシシジミ 中齢幼虫 2020.10.7 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 終齢幼虫 2020.10.7 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 終齢幼虫 2020.10.7 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) 2021.10.18 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ 2021.10.18 対馬市 対馬市 ▲ツシマウラボシシジミ 2021.10.18 対馬市 対馬市
▲ツシマウラボシシジミ Pithecops fulgens tsushimanus (Shirozu & Urata, 1957) ケヤブハギの葉を綴り,越冬体勢に入った終齢幼虫 2021.10.18 対馬市