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 ■対馬特有の遺伝型  ヒメアトスカシバ 黒化型  Nokona pernix  f.tsushima  【スカシバガ科】
ハチに擬態していると言われる昼飛性の蛾です。 静止している姿も蛾には見えませんが,飛翔している時はまさにハチにそっくりで驚かされます。

2007年7月,美津島町竹敷で初めてこの黒化型を見つけました。 腹部にごくうっすらと橙黄色の帯の痕跡らしきものが認められるもののほぼ全身真っ黒です。 
形態的にはヒメアトスカシバそっくりなのでその時はヒメアトスカシバの異常型ということで納得しました。 しかし,次の日,上県町千俵蒔山にも全く同じスカシバガがいたのです。 これはもしかしたら異常型ではなくヒメアトスカシバの1つのフォームなのか,または未知のシカシバガではないかと疑いが出てきました。

その後,島内各地で採集したサンプルを専門家の方に調べていただき,ヒメアトスカシバであることが確認されました。
正常なタイプのものと黒化したものとの間に連続性(クライン)がないことから,1つの遺伝型だと思われます。 ここでは f.tsushima (対馬型)と名付けておきます。
今のところ,この型は対馬だけに見られます。 寄主植物はヘクソカヅラ…。
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型)同士の交尾  2008.07.21 対馬市上県町
▲♂は細身で♀より小さく,腹部末端に「尾端総毛」が扇状に広がっています  2008.07.06  ▲ヒメアトスカシバ黒化型 新鮮な♀個体  2009.07.05 対馬市厳原町
▲ヒメアトスカシバ黒化型 2010.07.10 対馬市厳原町 ▲ヒメアトスカシバ黒化型 2010.07.10 対馬市厳原町


▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) ハチに似せたようにややトリッキーに動きます 触角の動きなどもハチそのも 2012.07.17 対馬市厳原町 


擬態対象と思われるオオフタオビドロバチが対馬では黒化することによる平行変異ではないかと考えています。 
ただ,対馬のオオフタオビドロバチの腹部黄帯の変異は個体差があるとのことですので,ヒメアトスカシバの方に中間変異が見られないのは不思議です。

この対馬型ですが出現率はノーマルタイプ とほぼ半々かやや多いという印象です。
このフォームがドロバチの仲間に擬態しているのは間違いないのでしょうから,実際に対馬には黒っぽいドロバチがどのような状態で生息しているのか,黒くな ることが戦略的にどのような意味を持つのか等,生態学的な研究テーマとしては興味が持たれるところです。 
 
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2011.07.03 対馬市厳原町
 
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2011.07.03 対馬市厳原町


ヒメアトスカシバであることの証明の一つです。 ♂(normal) × ♀(f.tsushima) と ♂(f.tsushima) × ♀(normal)
▲♂(normal) × ♀(f.tsushima) の交尾  2008.07.05 ▲♂(f.tsushima) × ♀(normal)の交尾  2013.07.08 


発生期について,スカシバガ図鑑(むし社) では,「ごく一部が第2化として発生するのか,第1化の発生が遅れた個 体なのか分かっていない」とされています。

対馬では,6月下旬〜7月中旬,及び8月下旬〜9月にかけて見られます。 第1化の終焉からブランクはあるのですが,秋口の発生は極端に個体数が少ないことを考えれば,年1化なのか2化なのか判断できないのが現状です。
 
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 第2化 2013.09.18 対馬市上県町 



 
▲ヒメアトスカシバ黒化型 吸蜜する♀ 2009.07.05 対馬市厳原町  ▲ヒメアトスカシバ黒化型 産卵のため寄主植物の近くを飛び回る♀ 2013.07.08 対馬市厳原町
 
▲ヒメアトスカシバ黒化型 ヘクソカヅラに産卵する♀ 2009.07.05 対馬市厳原町  ▲ヒメアトスカシバ黒化型  2010.07.10 対馬市厳原町


通常タイプ(normal)も載せておきます…。 
▲ヒメアトスカシバ通常型 2010.07.10 対馬市厳原町 ▲ヒメアトスカシバ通常型 2014.07.11 対馬市厳原町









 ■資料画像
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 一部発生と思われる第2化 2019.09.05 対馬市上県町
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2018.07.02 対馬市厳原町
▲ヒメアトスカシバ黒化型 2018.07.02 対馬市厳原町 ▲ヒメアトスカシバ黒化型 2018.07.02 対馬市厳原町
ハチに擬態していると言われる昼飛性の蛾で,飛翔している時はまさにハチにそっくりで驚かされます。

2007年7月,美津島町で初めてこの黒化型を見つけました。腹部にごくうっすらと橙黄色の帯の痕跡らしきものが認められるもののほぼ全身真っ黒です。 
形態的にはヒメアトスカシバそっくりなのでその時はヒメアトスカシバの異常型ということで納得しました。しかし,その後,全島各地から同じスカシバガが次々と見つかったのです。これは異常型ではなくヒメアトスカシバの1つのフォームなのか,または未知のシカシバガではないかと疑いが出てきました。

そこで,島内各地で採集したサンプルを専門家の方に調べていただいた結果,ヒメアトスカシバであることが確認されました。
正常なタイプのものと黒化したものとの間に連続性(クライン)がないことから,1つの遺伝型だと思われます。(f.tsushima=対馬型)今のところ,この型は対馬だけに見られるようです。

擬態対象と思われるオオフタオビドロバチが対馬では黒化することによる平行変異ではないかと考えています。 
ただ,対馬のオオフタオビドロバチの腹部黄帯の変異は個体差があるので,ヒメアトスカシバの方に中間変異が見られないのは不思議です。

この対馬型ですが出現率はノーマルタイプ とほぼ半々かやや多いという印象です。
黒化型はオオフタオビドロバチ対馬亜種に擬態しているのは納得できますが,正常型が残ったのはなぜでしょうか。対馬ではハグロフタオビドロバチが比較的多く見られることから,正常型が残った意味はそれなりにあるのかもしれないと考えています。
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 擬態の構図
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889) 通常型 2018.07.04 対馬市厳原町
▲ヒメアトスカシバ通常型 2018.07.04 対馬市厳原町 ▲ヒメアトスカシバ通常型 2018.07.04 対馬市厳原町
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2016.06.30 対馬市美津島町
▲ヒメアトスカシバ黒化型 2016.06.30 対馬市美津島町 ▲ヒメアトスカシバ黒化型 2016.06.30 対馬市美津島町
▲ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2016.06.30 対馬市美津島町

 
対馬ではここ数年、スカシバガを見る機会が激減しました。本種の場合、寄主植物はどこにでも生えているヘクソカヅラなので原因は不明です。
この個体はヘクソカヅラそのものではなく、ヘクソカヅラが巻き付いたブッドレアの枝に盛んに産卵していました。誤産卵でなければそのような習性があるかもしれません。 (2023/8/31)
 
▲  ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2023.08.31 対馬市厳原町 
 
▲  ヒメアトスカシバ 2023.08.31 対馬市厳原町    ▲  ヒメアトスカシバ 2023.08.31 対馬市厳原町 

 
 
▲  ヒメアトスカシバ  Nokona pernix (Leech, 1889)  f.tsushima(黒化型) 2022.06.28 対馬市上対馬町 
 
 





オオフタオビドロバチ
擬態の対象と思われるオオフタオビドロバチです。 
対馬産は,黒化傾向にあり対馬亜種となっています。 黒化の度合いは,個体によってその程度が違うようです…。 
▲オオフタオビドロバチ対馬亜種 2010.07.10 対馬市厳原町 ▲オオフタオビドロバチ対馬亜種 2012.09.14 対馬市厳原町
▲オオフタオビドロバチ対馬亜種 Anterhynchium flavomarginatum tsushimarum (Yasumatsu, 1935) 2017.08.21 対馬市厳原町産





ムラサキスカシバの黒化型
この f.tsushima (対馬型)ですが,同じNokona 属のムラサキスカシバ( N.purpurea )でも出現することを確認しています。 

ただし,これまでに2頭だけの確認ですから,ヒメアトスカシバに比べてかなり出現率は低いものと思われます。
 
▲ムラサキスカシバ  Nokona purpurea (Yano, 1965)  f.tsushima(黒化型)