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 ■崖からの湧水だまりで生活する ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis  【ゲンゴロウ科】
 日本のモンキマメゲンゴロウ属 Platambus は8種が知られ、これまで対馬からはモンキマメゲンゴロウ、キベリマメゲンゴロウとサワダマメゲンゴロウの3種が記録されていました(中島ほか,2020:鈴木,2019)。
 最近、新たに対馬からウスリーマメゲンゴロウP.ussuriensis (Nilsson,1997)が報告されました(三宅,2020)。本種は国外ではロシア沿海州、朝鮮半島、中国北東部に分布するゲンゴロウで(Nilsson,1997)、また1種対馬に大陸系の昆虫が加わったことになります。
▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997)頭部後縁に赤紋。 上翅中央やや後方よりと末端付近に2対の黄紋が認められる。 2019年6月10日 対馬市厳原町

発見のいきさつ
 2019年の6月初旬、長崎昆虫研究会の松尾照男氏の呼びかけで対馬の昆虫調査(主に甲虫類)が行われました。前年に引き続いての2回目の調査となります。参加者は長崎から発起人の松尾氏と同会会長の西澤氏、大分から大分昆虫同好会会長の三宅氏、タマムシがご専門の堤内氏、そして佐賀の西田氏と私の6名です。調査3日目、上島から下島へ移動しました。
  途中、三宅氏の「湿岩のシジミガムシが見てみたい。」という希望で厳原町久田(矢立林道)のポイントへ案内することにしました。現地に着くなり、それぞれがシジミガムシを採集していましたが、一人側溝の水たまりをガサガサされていた三宅氏は小型のゲンゴロウを2頭採集されました。この短い時間での三宅氏の行動がウスリーマメゲンゴロウの発見に繋がることになります。
 帰宅した三宅氏は♂交尾器を調べ、日本産既産種のいずれとも異なることを確認しました。すぐに氏よりこの報告を受けたので再度現地を訪れ、依頼された追加個体の採集を試みました。水深がほとんどない側溝において、沈積して張り付いた腐れかかった落葉下や小石の下に潜んでいた多くの個体を採集することができました。
 その後、三宅氏は林正人氏らの協力を得て、本種が「Platambus ussuriensis (Nilsson,1997)」であることが判明し、三宅氏自身によって種小名を基に和名「ウスリーマメゲンゴロウ」が提唱されました(三宅,2020)。もちろん、日本初記録となるゲンゴロウであり、対馬の昆虫相の特異性を示すものです。後日、最初の発見ポイントから更に標高を上げた側溝の土砂や落ち葉でせき止められた水たまりでも確認し、動画撮影も行うことができました。
▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2019年8月16日 対馬市厳原町


形態的特徴
 体長5.7mm~6.7mm、体形は長楕円形で背面、腹面ともに黒色で光沢があります。側縁やや後方と翅端付近にそれぞれ一対の淡黄~黄色の紋を有しますが、翅端付近の黄紋の方が明らかに大きくなっています。また、頭部後縁に沿って一対及び前胸背前縁中央にはうっすらと赤褐色の紋が認められます。
▲背面 2019年8月10日 対馬市厳原町産 ▲腹面 2019年6月10日 対馬市厳原町産 ▲斑紋パターン  対馬市厳原町産より作図
▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997)

韓国産の本種について記載したWebサイトには、体長が6.4mm~7.5mmとされていて、明らかに対馬産は韓国産に比べて小型の集団(平均6.3mm、n=82)であるといえます。今後大陸産との比較検討も必要となるでしょう。
▲対馬産ウスリーマメゲンゴロウの体長 計測個体数:82頭

  体長、体形で♂♀の差はありませんが、♂の前脚脛節は♀に比べて明らかに幅が広くなっています。
 また、♂には前脚フ節1~3節及び中脚フ節基部に細い毛のようなものが密生していますが(矢印)、♀はこれを欠ことで区別できます。
▲♂フ節 長毛が認められる ▲♀フ節

 ♂交尾器中央片の形状はNilsson(1997)の記載図と一致していますが、記載図には描かれていない内側に細い短毛が認められました(矢印)。交尾器中央片は同属のホソクロマメゲンゴロウに最も似ていますが、剛毛はなく先端は尖ります。内側のカーブは独特で「つ」の字状に湾曲します。これらのポイントで日本産同属の他種と区別できます。
▲ウスリーマメゲンゴロウ ♂交尾器 ▲ウスリーマメゲンゴロウ ♂交尾器 中央片

 一方、腹板の形状については記載図とはやや異なって見えます。これが安定した違いとして認められれば、対馬産の特徴を示すものとして興味深い形質です。参考までに前胸腹板突起も示しておきます。
▲対馬産ウスリーマメゲンゴロウの腹板                a:ロシア産 (Nilsson,1997)       b:対馬産   ▲対馬産 前胸腹板突起


生息環境
 現在まで確認できた生息地は下島の次の4か所です。

A:対馬市厳原町久田(矢立林道)発見地
B:対馬市厳原町内山(矢立林道)Aより標高を上げた場所
C:対馬市厳原町小浦
D:対馬市厳原町久和

 発見地AとBは山間の道路沿いの側溝で、崖の岩盤からしみ出した水や雨水が入り込んでいるような場所でした。従って晴天が続けば、すぐに乾燥して枯れたり、逆に少量の降雨でも急流に曝される非常に不安定な環境であるといえます。
 Cもほぼ同じような環境ですが常に流水にさらされています。川床を覆うように生えてる藻類の中に潜んでいました。このように通常は落ち葉や藻、小石などに姿を隠していますが、堰き止められてできたある程度水深のある水たまりでは活発に活動する様子も見られました。
 これらことから本種は基本的に流水域を好むゲンゴロウであり、環境の変化にも対応できる移動能力の高い種であることが推測されます。

▲ウスリーマメゲンゴロウの生息地A 側溝の腐った落ち葉の下などに隠れている。 2019年6月12日 対馬市厳原町
▲ウスリーマメゲンゴロウの生息地A このような水たまりでは時々呼吸のため水面に上がってくる個体が見られた。 2019年7月31日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウの生息地B 2020年4月6日 対馬市厳原町 ▲ウスリーマメゲンゴロウの生息地D 小渓流からの道路への染みだし 2021年3月15日 厳原町
▲ウスリーマメゲンゴロウの生息地C 藻の下に潜んでいた 2020年7月5日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年7月24日 対馬市厳原町


発生状況
 2019年6月~2021年3月にかけて発生状況の調査を行いました。
特に2020年には旬間毎に生息地を見て回りました。その結果、成虫は2月下旬から姿を現し、7月~8月に最も多く見られ、11月上旬を最後に冬季には生息地から姿を消しました。

[初見記録]多数,対馬市厳原町久田(矢立林道),22.Ⅱ.2021
[終見記録]3exs.,対馬市厳原町内山(矢立林道),1.Ⅺ.2019

 成虫が確認された約7か月間はほぼ安定した個体数が認められました。6月下旬に多くのテネラルな個体が見られたことから、この時季が新成虫の出現期と思われます。恐らく年1化、成虫越冬であろうと推測されます。
 確認した生息地で目視や流れの底を網で掬うなどして幼虫を探しましたが,見つけることはできませんでした。これらの生息環境があまりにも不安定なため,幼生期を過ごす場所は他にあり、羽化後移動してきているのでしょうか。それとも探し方が悪いのでしょうか。本種の産地は今のところ極限られているが、同様の環境で見つかる可能性は高く、幼生期の解明、越冬状態などと共に今後の調査に期待したいと思います。






 ■資料画像・映像
▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年5月30日 対馬市厳原町 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2021年9月24日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ 2021年3月15日 対馬市厳原町 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2021年2月22日 対馬市厳原町
▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年10月25日 対馬市厳原町 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年10月25日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年6月28日 対馬市厳原町産 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年6月28日 対馬市厳原町産

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年10月18日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年9月25日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年9月18日 対馬市厳原町産 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2020年9月18日 対馬市厳原町産

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年9月10日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年6月28日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ Platambus ussuriensis (Nilsson, 1997) 2020年6月28日 対馬市厳原町

▲ウスリーマメゲンゴロウ 2019年7月31日 対馬市厳原町 ▲ウスリーマメゲンゴロウ 2019年8月10日 対馬市厳原町




参考・引用文献およびサイト  謝辞
三宅武,2020 日本初記録のゲンゴロウPlatambus ussuriensis (Nilsson) さやばね 37;44-45
中島淳・林成多・石田和男・北野忠・吉富博之,2020.ネイチャーガイド日本の水生昆虫 文一総合出版 東京
三田村敏正・平澤桂・吉井重幸,2017.タガメ・ミズムシ・アメンボ ハンドブック 文一総合出版 東京
鈴木茂,2019 webサイト「日本列島の甲虫全種目録 (2019年)」ゲンゴロウ科,マメゲンゴロウ亜科
webサイト https://species.nibr.go.kr/index.do
A. N. Nilsson, 1997(dated 1996) A Redefinition and Revision of the Agabus optatus-group (Coleoptera, Dytiscidae); an Example of Pacific Intercontinental Disjunction, ENTOMOLOGICA BASILIENSIA. 19;621-651


本種の発見に尽力されるとともに文献を恵与頂いた三宅武氏(大分昆虫同好会)、日頃より甲虫全般についてご教示いただいている松尾照男氏(長崎昆虫研究会)に謝意を表します。