■♂性標が特徴の大陸亜種  ウラナミジャノメ  Ypthima multistriata ganus  【タテハチョウ科】
2004年から数年間の一時期,個体数が激減して心配されましたが徐々に回復してきています。 流石に以前の状況にはほど遠いので すが一安心といったところです。 この時期はタイワンモンシロチョウなど多くのチョウが減少したのですが,原因は解明されていません。
 
さて,対馬産は大陸の方の亜種にくくられ,本土の亜種とは分けられています。 標準図鑑には,「・・・・対馬に産するものは♂の前翅表の発香鱗条の発達が強く,中国大陸,朝鮮半島産と同じ亜種 ganus Fruhstorfer,1911 とされる。・・・・」と書かれています。
 ▲シダの葉上で休止する  2007.07.08
 
 ▲第1化♂  2010.06.19    ▲第2化♀  2008.09.07
 
   
 
 ▲♂の性標  2013.06.26   ▲♀  2012.06.23 
 
   
 
2012.05.26     2010.06.19
   
 2007.07.07   ▲10月上旬の新鮮な個体  2013.10.04 
 
対馬のウラナミジャノメの化性についてはいろいろと考えの違う報告がなされています。 

基本ははやはり年2化ではないかと思い始めています。  第1化も結構ダラダラと発生するのですが,第2化も同じような傾向にあるのではないかと思われます。 特殊な状況下であったにせよ,11月上旬にも新鮮 な個体を見たこともあるからです。
通常8月中旬から第2化が姿を現します。 一部の産地では既にかなり擦れた第1化の個体が見られるのですが,他の産地では新鮮な♂が多く,♀はこれからといった感じです。 このように産地毎にも若干のズレが生じるようです。
 
▲交尾個体 第1化  2014.06.20 
 
▲交尾 第2化  2009.08.23    ▲交尾 第2化  2013.09.02 


対馬にはヒメウラナミジャノメはいないのですが,日本本土,朝鮮半島にごく普通に見られ,個体数も多いといわれています。 
お隣の壱岐島にもごく普通に分 布しています。なぜ、対馬にだけいないのかとても不思議です。 しかも,対馬においてヒメウラナミジャノメの生息を制限するような要因が見あたりません。

下に分かりやすいように整理してみました。 
少々荒っぽいのですが,生息環境によって大まかにとらえるとこのようになります。 対馬のウラナミは明所から 林縁まで好むのに対して,本土のウラナミはどちらかといえば林縁部を中心に暗所を好む傾向にあります。 つまり、本土においてヒメウラナミが生息する環境に,対馬ではウラナミが進出していることになります。 
対馬のウラナミジャノメはヒメウラナミジャノメの生態的代置種の様相を呈しているのです。
生息環境の違い

【対馬】

○明所〔裸地〕  ウラナミジャノメ ・・・・競合し、ヒメウラナミジャノメは滅亡?
●暗所〔林縁〕  ヒメジャノメ

【本土】

○明所〔裸地〕  ヒメウラナミジャノメ
●暗所〔林縁〕  ウラナミジャノメ
            ヒメジャノメ


  
▲第1化 ヒメジョオン吸蜜  2014.06.15    ▲第1化 オカトラノオ吸蜜  2013.06.27
   
 ▲第2化 吸蜜  2007.09.17    ▲第2化 ダンギク吸蜜  2009.09.19
 

 
   
 
第1化  110701     第2化  080905    第1化  110701     第2化  080906 


  
【資料】  対馬産ウラナミジャノメの周年経過について    
過去の記録(もちろん把握している範囲)を見直してみました。  このうち周年経過に関わることについて言及している報文として,

●浦田,60f  ”…年2回の発生で6-7月,8-9月にわたり出現する。”
●川勝・垂井,58b  ※1955.8.26の観察として ”あきれるほど沢山いる”
●福田など,72  ※1971.9.4 有明山の緑色型の蛹を図示
●藤岡,72  ”対馬では1化が6月,2化は8月中〜9月上旬に出現するが,有明山山頂(558m)などで7月末に新鮮な個体が得られることもあり,このような地では年1化も混じっているものと考えられる。”
●山口・浦田,65  ”6月−7月,8月−9月の2回に多産する。
●小檜山,72  ”出現期6月中旬〜7月上旬と8月下旬〜9月上旬の年2回発生だが,7月頃の年1回も混じるようである。”
●平尾,68  ※9月初めの観察として ”本州において比較的少ないホシチャバネ,ウラナミジャノメが居るわ,居るわ。ジャノメといえばウラナミ・・・という感じ”
●堀田,68  ※1967.8.22の観察として ”ウラナミジャノメも多い。”
●戸高,62b  ※1961.8.9の観察として ”ウラナミジャノメが多かった”
●中谷,74  ※1973.6.17採集の母蝶からの飼育記録  ”6.8産卵 6.27孵化 7.25前蛹 7.26蛹化 8.5羽化”
●江島,74b  ”8月22日,…交尾個体を…有明山で発見した。”
●浦田,77e  ”出現期は5月上旬から10月までで特に第2化のものはその個体数も多いが…”
●江島・境,78  ”年4回 5中(20)→6,6中(20)→8,8下→9,9下→10下(24)”

採集観察データを月ごとに見てみると,

・5月上旬 ×     ・5月中旬 ○    ・5月下旬
・6月上旬 ○    ・6月中旬 ○    ・6月下旬 ○
・7月上旬 ○    ・7月中旬 ○    ・7月下旬 ○
・8月上旬 ○    ・8月中旬 ○    ・8月下旬 ○
・9月上旬 ○    ・9月中旬 ○    ・9月下旬 ○
・10月上旬 ○    ・10月中旬 ○    ・10月下旬 ○

このように6月から10月にかけて切れ間なく記録があります。 
藤岡の指摘のように有明山のように年1化の混じる可能性ですが,有明山の記録をピックアップすると,
5/20(少数目)  6/16(2♂)  7/6(1♀) 7/19(2♂1♀)  7/21(4♂5♀) 
7/29(3exe.)  8/4(1♂)  8/6(1♀)  8/10  8/22(交尾個体) 9/4(蛹)   9/29
などがあり,藤岡の指摘は妥当性に欠けるようです。

対馬の場合,発生の端境期が明確でないので周年経過を特定するのは非常に難しいです。 11月上旬(記憶では3日),今羽化したと思われるような個体を見たこともあります。(未発表)

通常,6月中旬からの発生で産卵から羽化まで2か月として,
・第1化 6月中旬から7月下旬にかけて発生
・第2化 8月中旬〜9月下旬にかけて発生
ということになるのでしょうか? 感覚的には年2回という感じはないのですが,それだけ発生間隔が長いといえます。