■見よ!その珍奇な姿  ツシマヘリビロトゲハムシ Platypria melli Uhmann   【ハムシ科】
この変わった姿をしたハムシが対馬にいることは,「対馬の生物(長崎県生物学会 1976:宮田)」によって知りました。 モノクロの素晴らしい精密なペン書きの図が示されていて飽きることなく眺めたものです。 いつかはお目にかかりたいと思っていましたがなかなかその機会が訪れることはありませんでした。

その後の調査研究で,謎だった寄主植物がケンポナシであることが判明し生活史の一部も明らかになりました。 しかし,ケンポナシが対馬では比較的まれな植物であることから,今でも珍種の座を保っています。 国外では中国南部にも生息しています。
▲ケンポナシの葉上に出てきた 2015.05.23
▲通常はこのようにケンポナシの葉裏にじっとしている 2016.05.18 対馬市豊玉町
▲たまたま活発に活動する個体を発見 2016.08.30 対馬市厳原町 

ツシマヘリビロトゲハムシの周年経過については,
●成虫越冬する。
●4月〜5月,ケンポナシの芽吹きとともに越冬後の個体が産卵する。
●年1化という説と,9月にも幼虫・蛹が見られたという観察例がある。
この程度しか分かっていませんでした。

そこで2014年9月に峰町で採集して越冬させた2個体と,今年になって上県町で採集した4個体の計6個体を自宅庭のケンポナシに放し飼いにしました。 このケンポナシはKさんから苗木を頂き,地植えしているものです。 まだほんの若木ですが樹高1mほどに育っています。

生活史(周年経過)を確認するためにほぼ自然に近い状態で観察することにしました。 やがて6頭中3頭がこの木にとどまり,交尾・産卵を経て,夏には多数の新生成虫を見ることができました。 大まかな生活サイクルは次のとおりです。
▲ツシマヘリビロトゲハムシの周年経過


孵化した幼虫は葉と葉の間に穿孔して,葉脈に沿って食べ進んでいきます。 ケンポナシでこのような特徴的な食痕が見られたら本種と思って間違いないでしょう。
▲食痕の初期の段階とその広がりの様子です。 幼虫は葉脈に沿って葉の中に穿孔して食べ進みます。 2015.06 
▲○印に幼虫がいます 2015.06 ▲矢印に幼虫がいます 2015.06
▲このように葉の間に潜行して,葉を食べながら成長します 2015.06

幼虫期間はおよそ20日ほどになります。 幼虫期間のほとんどを葉の中で過ごした後,蛹化場所を探すために初めて潜行場所から出てきます。 

蛹になるために終齢幼虫が葉上を移動していたところに出くわしたので,蛹室を造る様子を観察することにしました。(2015年7月4日) 

 
体はウジ状で,頭部と尾端が茶褐色の他は乳白色をしています。 体の両側は11対の棘状の突起を備えています。

蛹室は葉表から切り込みを入れて袋状に造るので,葉裏は移動のみ。 ただ,蛹室を造る場所の葉裏に傷などがないか確認をしている可能性はあります。

動きが止まりました。 ようやく蛹化場所が決まったようです。

支脈に沿って,頭を主脈に向けて静止しました。 まず,真横に体の幅が十分入るような切り込みを入れます。

幼虫時代は葉の表と裏の間に穿孔して食べるので,この行動はお手のものだと思われます。

幼虫時代は葉の表と裏の間に穿孔して食べるので,この行動はお手のものだと思われます。

入口の形が三日月状になったら第1段階終了です。

後は支脈に沿って前へ前へと穿孔していきます。

最終的には体長のおよそ1.5倍ほどの細長い袋状の蛹室が完成することになります。
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入口付近に噛みくずが見られますが,食べながら穿孔していくので蛹室内に糞が見られることがあります。


2015.07.04 対馬市厳原町
▲出来上がった蛹室と終齢幼虫 2015.07.04 対馬市厳原町



▲ツシマヘリビロトゲハムシ   Platypria melli






  
   ■資料画像
2016.08.26 対馬市厳原町
2016.08.30 対馬市厳原町

2016.05.18 対馬市豊玉町


(2015年)7月下旬頃から始まった新成虫の羽化で一時は30頭近くになっていましたが,その後徐々に数を減らしていきました。 いくつかは新天地を求めて放浪の旅に出たと思われますが,その他はじっくり栄養をとって越冬態勢に入ったのでしょう。

10月13日に見られた最後の1頭です。 15日は姿を消していました…。 越冬場所は未だに不明です。
2015.10.13 対馬市厳原町
▲前脚と中脚で体を支え,ぶら下がるような格好で糞をしているところ 2015.08.15 対馬市厳原町


2013.05.26 2014.09.02
2011.06.18  2011.06.18


寄主植物のケンポナシは,沢沿いの湿気の多い場所に生えています。 遠目によく似ている植物も多く,なかなか見つからないのが現状です。

運良く探し当てても,ツシマヘリビロトゲハムシが付いているとは限りません。 照度や湿度,周囲の環境など思ったよりが原因だと思いますが,思ったより気むずかしい昆虫と言えそうです。
▲食餌植物のケンポナシ  単独で生えていることが多い  2013.06.05 豊玉町 ▲ある程度の湿度が保たれている場所に生えています   2011.06.18 峰町
▲樹冠付近の葉裏に付いていました  2013.06.05 2011.06.18
2011.06.18  2013.05.26


上県町の山中で,渓流に沿って伸びる山道の山手側に1本のケンポナシを見つけました。 まだ若木で幹径5cmほどです。

手を伸ばすと届きそうな葉裏にツシマヘリビロトゲハムシがいくつも付いています。 葉をよく見ると,逆光の中に葉に食い入った幼虫のシルエットが浮かび上がっていました。 ケンポナシは高木のことが多く,このように間近で幼虫の様子を観察できるのは珍しいことです。 

残念ながらこの木は,次の年は急速に衰え,あっという間に枯れてしまいました。 山道沿いを丹念に探索しましたが新たなケンポナシを見つけることはできませんでした。
▲幼虫は葉の中に潜入しています  潜入初期の状態です  2013.07.25 ▲少なくとも6頭の幼虫が葉脈を残して葉を食べています  2013.07.25
▲食痕に小さな穴がいくつも開いているのは,そこから糞を外へ出しているためです  2013.07.25 ▲1枚の葉に数頭いてもそれぞれが単独で摂食行動を行います  2013.07.25
▲葉脈に沿って細長いスコップの形をした袋状の蛹室を造っています  2013.07.25 ▲前蛹か蛹かはシルエットでははっきししません  2013.07.25


▲葉裏で休む   2013.05.26




余談:

この虫を愛して止まない友人のK氏は,ツシマヘリビロトゲハムシをその姿から「トゲトゲファイヤー」の愛称で呼んでいます。 実に的を射ていると思います。

飛翔するときには,上翅をランボルギーニカウンタックのようにせり上げ,後翅を広げて飛びます。 いつか動画で撮ってみたいものです。
 
 ▲飛び上がるツシマヘリビロトゲハムシ 合成画像  2011.06.18


  
    ※ツシマヘリビロトゲハムシの生態については次の報文があります。    ツシマヘリビロトゲハムシの生態的知見」  日下部満    「ツシマヘリビロトゲハムシの生態」  大鐘・浅野   月刊むし No.499 2012