■奇抜な形態をした蛾  フサオシャチホコ  Dudusa sphingiformis Moore 【シャチホコガ科】
フサオシャチホコは中国,朝鮮にも分布している大陸系の蛾です。  もちろん日本では対馬だけに生息しています。 

フサオシャチホコが発見されたのは比較的近年になってからで1972年のことです。 大きさもさることながら,最大の特徴は腹部末端のふさふさとした束を備えていることです。 これの機能的な意味については全く分かりません。
▲灯火採集の白幕に飛来した♂   2005.08.09   ▲尾端のふさふさは鱗粉が変化したものでしょう  2005.08.09 
 
 
 
   
対馬の生物(中臣1976)では,オニイタヤ から終齢幼虫が採集されたこと,カエデ属がシャチホコガ科の寄主植物としては珍しいことが報告されています。 

同属のイロハモミジからも若齢幼虫と終齢幼虫を見つけることができました。  シャチホコガ科の幼虫では珍しく若齢幼虫から終齢幼虫まで,顕著な棘を持っています。 
また,終齢幼虫の体色には黄色型と褐色型の2型あることが分かりました。

終齢幼虫は葉を食べる時に,葉柄の途中に噛み傷をつけ,折り曲げて引き寄せてから食べます。 面白い行動です。
 
▲若齢幼虫  シャチホコガ科の幼虫では珍しく顕著な棘を持っています  2005.08.31     ▲終齢幼虫  黄色型  2005.08.31
 
▲終齢幼虫  褐色型  2005.09.16    ▲葉柄の途中に噛み傷をつけ,折り曲げて引き寄せてから食べている   2005.09.16
 

 
   
蛹化は土中で行われます。

もぐり初めて約3分間で完全に土中に入りました。 蛹はごく普通の形をしていました。
 
▲蛹化するため土中に潜る終齢幼虫  2005.09.03 と 蛹  2005.09.07 
 

 
余談:

この蛾にまつわる思い出…。
中学生の一時期,蛾の調査に熱を入れていたことがあります。 当時,厳原の八幡神社前にできた銀行の水銀灯は格好の誘蛾灯となっていました。 夜ともなれば車の通りもほとんど無く,厳原の町は今よりずっと暗かったのです。
子どもたちが,夜に網をもって水銀灯の周りで虫取りをして騒いでも,さほど奇異に見られない時代だったのでしょう。 小さな自分の子どもに,クワガタムシの一匹でも採ってやろうという心優しいお父さんなども時々集まって来ることもありました。 水銀灯の熱で大切な捕虫網を焦がしたことも今は懐かしい思い出です。

平地の蛾を一通り見ると,山の蛾を見たくなるのは自然の成り行きです。 どこか良い場所はないか。 だれから教えてもらったのかは覚えていませんが,上見坂に電電公社(今のNTT)の施設があり,外灯がついていることを知りました。 さっそく網と毒ビンをかかえ,虫をやっていた小学生の友達と3人で歩いて上見坂に行くことにしました

ここは最高の所で,風もなく霧が谷間からわき上がってくるような(つまり,幽霊がでるような)日には,多くの蛾が集まってきました。 当直をされていた公社職員の方も実にいい人達で,周りでワーワー言って半ば狂っているような子どもたちに,「中に入って,お茶でも飲まんか」とか,「中で寝てもいいぞ」とか,優しく見守ってくださいました。

当然蛾の種類も多く,平地では見られないようなものも採集することができました。 そんな蛾の一つが,このフサオシャチホコです。 初めて見たときは,その奇抜な静止する姿に本当にびっくりしました。まさに,「なんじゃあ,こりゃぁ!」です。 大型のシャチホコガらしいことは分かりますが,腹端のフサフサしたものの意味も理解できません。 初めは手で触れることを躊躇したほどです。