■秋に鳴くセミ チョウセンケナガニイニイ  Suisha coreana Matsumura  【セミ科】 
 
※ジャンプします…。                

 
チョウセンケナガニイニイは
秋から晩秋にかけて出現する珍しいセミで,日本では対馬だけに生息しています
対馬各地で鳴き声が聞かれますが,分布は非常に局地的です。 生息環境の悪化に伴い次第に生息域が狭められています。 ニイニイゼミより一回り大きく,
体中が細く長い毛で覆われています。
鳴き声はややかん高く,チィーッ、チィーッ、チィーッと鳴き,ニイニイゼミのようにチッチッチッという断続音を発することはありません。

生態等不明な点が多く,研究の興味をそそられる対象です。 外国では朝鮮半島・中国に生息しています。
 
  内に点在し,隔離される生息地  
生息地の記録は全島的に広がっていますが,現在は鳴き声が聞かれなくなった所が何か所もあります。 上対馬町から記録がないのは不思議です。

通常,コナラやクヌギなどの小規模な林に生息しています。 樹冠付近の小枝で鳴いていることが多く,姿を見つけることはなかなか難しいものがあります。 枝には下向きなることはなく,馬乗りの格好で止まります。(下の画像では円のなかにいます)
 
 ▲既産地と樹冠付近の細い枝に止まって鳴いている♂ 2013.10.21
 
  く長い毛に覆われた体  
チョウセンケナガニイニイの一番の特徴はなんといっても体全体を覆う細く長い毛です。 
このようなSuisha属のセミは東アジア地域に固有の属で,日本から中国にかけて2種類しかいません。 台湾には別種ケナガニイニイ(Suisha formosana)がいて,秋期から冬期にかけて出てくるといわれています。
 2004.10.23    2010.10.30
 
▲逆光に浮かび上がる体毛  2012.10.20    ▲全身が毛で覆われているのが分かります 210.11.03
 
 ▲新鮮な個体は胸背部に毛が見られますが,しばらくすると擦れてなくなってしまいます 2014.10.14 

 
  き方と鳴き声  
 
鳴き方については一日を通して,どこかの時間帯に集中するというような感じはありません。 

おおよそ午前9時前後になるとあちこちで予鳴きが始まり,1頭が本鳴きに移ると次々に周りも鳴き始めます。 その後,一斉に鳴き止んだり,また鳴き始めることを夕刻まで続けることになります。 もちろん,その日の気象条件によっても鳴き方が違ってくるようです。

例外的なことかもしれませんが,日没後,あたりが暗闇に包まれてからも鳴いた個体がいたのには驚きました。
 2013.10.12   2013.10.14 
 
 2010.10.23    2009.10.24
 
   
 鳴く様子を動画撮影しました。 
コンデジなので画質・音質ともによくありませんが,雰囲気は伝わると思います。 腹部を上下に振るわせて懸命に鳴く姿はなかなか迫力があります。
 
 ▲チョウセンケナガニイニイの鳴く様子 2013.10.12   ▲鳴く様子のまとめ 

 
 
  化  
 
 羽化を数回観察することができました。

羽化する時刻については,他のセミに比べて昼間に羽化する傾向が強いのは確かですが,基本はやはり夜間日没後に行われると思います。
 ▲羽化が終了し,体が硬くなるのを待つ 2011.10.08
 
 ▲チョウセンケナガニイニイの羽化  13:15 〜 14:50    2014.10.06  
 

 2011年,この年は何としてもチョウセンケナガニイニイの羽化シーンが撮りたくて,3連休を利用して発生地に通い詰めました。
 
幸運なことに1日目に羽化途中の個体 を見ることができたからです。 そして最終日の午後4時前になってついに地上に出てきた幼虫を見つけ,脱皮の全てを観察することができました。

3日間の記録です。(気象データは上対馬町鰐浦)
2011/10/8の記録(5個体) 最低18.0 最高23.7 風速1.9
  1 (11:58)脱皮途中 クロスズメバチに捕食される
  2 (12:11)脱皮途中 (12:25)脱皮完了
  3 (12:13)脱皮完了直後
  4 (12:21)脱皮開始直後
  5 (13:51)脱皮完了直後 羽化不全
2011/10/9の記録(1個体) 最低18.5 最高23.6 風速2.7
  1 (13:30)脱皮直後 ※林先生も確認
2011/10/10の記録(5個体) 最低18.9 最高23.5 風速2.5
  1 (15:43)幼虫 
  2 (15:46)幼虫 画像・動画の個体
  3 (16:48)幼虫
  4 (17:52)幼虫
  5 (17:44)幼虫

この3日間が他の日と違って特異なのは,「日照時間が10時間前後である」 「最低気温が18度を超えている」 「風が弱い」ということです。 
このあたりに昼間に羽化する条件のヒントがありそうです。
▲チョウセンケナガニイニイの羽化 〜歩く幼虫から完全羽化まで   2011.10.10 

▲羽化場所を求めて歩く幼虫 2011.10.10   ▲羽化の様子 2011.10.10 
2015.10.8 2015.10.8

2015.10.14
2015.10.14
 
        
羽化の場所は当然脱皮殻を見つけることで知ることができます。

脱皮殻の多くは,林床の下草や樹木のおよそ1mより低い場所で見ら,それよりも高所では極端に少なくなります。(最高は3mを超えるクヌギの幹)
▲地表近くの下草の脱皮殻 2011.10.16 
     
▲脱皮殻のいろいろ 

       
  尾  
 
交尾は5例観察しました。  

5例ともに正午前後に交尾が行われていました。 交尾型は「反向型」といわれるものです。

 1 2011/10/15 11:33
 2 2012/10/14 12:24
 3 2012/10/20 11:01
 4 2013/10/12 12:20
 5 2016/10/23 12:46

アロエで人工飼育した記録によると,2年ほどで成虫になったといいます。 これはやっぱり自然状態に比べると早いのでしょうね。 幼生期の知れた他種のア ロエ飼育と自然状態での相関から類推するとどうなんでしょう。 
また,産卵は高所の枯れた枝に生み付けるとも書いてあったと記憶しているのですが,観察し た人は凄い! よく見つけることができたものだと感心します。
 2011.10.15   2012.10.14 
 
 2012.10.20    2013.10.12
2011.10.15 
2016.10.23
 
 
  産卵  
 
2013.10.16 

  
  敵 〜危険がいっぱい!  
 
鳥類に捕食されていると思うのですが,その機会には出会えていません。 

2014年は生息地周辺にアトリの大群が渡ってきていましたが,近くに群れが来ると一斉に鳴き止む様子が観察されました。 夜間にはツシマヤマネコやツシマテンなどにも捕食されているかもしれません。
▲羽化の途中,クロスズメバチ(Vespula flaviceps )に襲われる 2011.10.08   ※右下の画像は同じように捕食されたと思われる別個体 
▲キイロスズメバチに捕食される羽化途中の幼虫 2015.10.10
 
▲ジョロウグモ(Nephila clavata ) の巣にとらわれたチョウセンケナガニイニイ 2011.10.09
 
 13.10.12    2011.10.15 
 
 
  異 〜橙色型  
 
チョウセンケナガニイニイにもニイニイゼミと同じように橙色型が現れます。 
きちんとデータをとってはいませんが,おおよそ40〜50頭に1頭程度の出現率の印象です。 
 2013.10.16    2012.10.13
 
▲幹に止まる橙色型の新鮮な個体 2012.10.13    ▲(同左)  2012.10.13
 
 途中からですが,運良く橙色型の羽化に出会うことができました。 時間経過は,

(12:53) → (13:00) → (13:04) → (13:05) → (13:08) → (13:21) → (13:23) → (14:17)
 ▲橙色型の羽化 2013.10.19
 

 
バック ・ 標本画像
 
コンデジ(RICOH CX6)+LED2灯+フラッシュ使用で撮影,深度合成はしていません。
 ▲対馬市上県町産 14.10.06羽化 10.07撮影
 
  
【背面・腹面】
 ▲♀は♂より一回り小さい。 ♂前胸背の毛が禿げているのが残念…。 ♂:2011.10.09 ♀:2011.10.10
 
    
 【正面・側面】
▲♀の前胸背は♂に比べて盛り上がっている。 ♂♀:同上 
 
  
 【開翅】
 ▲前翅前縁基部の翅脈が盛り上がっていること,後翅のほぼ全面が橙黄色なのが特徴…。  ♂♀:2011.10.10
 



 
 参考文献  「日本産セミ科図鑑」(林正美他 2011)